SD法による深部脳波測定・脳活動可視化の検討
宇山龍典
1.はじめに
近年、脳活動の可視化や機能局在の研究がさかんに行われているが、脳活動の
三次元計測とその結果の利用となると十分でないのが現状である。こうした中、
特別でない普通の環境においてリアルタイムに三次元の脳活動の様子が得られる
装置があれば、脳の機能を解明する上でも医学の臨床的にも非常に有益なツール
となる。そこで本研究では、計測装置が比較的手軽な脳波を用いて、脳の上半球の
活動をリアルタイムに可視化できるシステムの開発を目指す。
2.source
derivation法
システムを開発するにあたっては、深部の脳活動情報をいかにして得るかが
問題となる。そこで本研究では、脳波導出法としてSource Derivation法(以下SD法)
を用いる。SD法は電極直下の電位をS/N比良く検出するためにB.Hjothによって開発
された方法で、従来法と組み合わせることにより深部脳波も導出できるとされている。
しかし日本では研究報告も比較的少なく、有効性についても十分に検討されていない。
そこでまず、脳・頭蓋・頭皮の三層からなる双極子モデルを使って、コンピュータ
シミュレーションによりSD法の有効性を確認した。そして電極近傍の電位をS/N良く
導出する、電極間距離は小さくするほど有効な方法となる、といった従来の知見と
一致する結果を得ることができた。
3.システムの構成
本研究で作成したシステムでは、まず脳波データを取り込み、SD法により皮質脳波・
深部脳波の推定を行う。そして一定時間の間の脳波の積分値を求め、その値を電位
として表示するようにした。
脳活動の表示には、二次元のトポグラフィックマッピングを、OpenGLで描画した三次元
頭部モデルに貼り付けるという手法を用いた。この方法では見かけが三次元になった
だけで情報としては二次元のままであるが、今後深部脳波のマッピングが精度良く
得られるようになれば、そこで得られる情報から本当の意味での三次元描画を目指す
つもりである。
4.システムの評価
システムの評価については、SD法と従来法との比較、深部脳波導出の妥当性といった
観点で行った。まずSD法と従来法を比較した。これは安静閉眼時のα波帯域について
マッピングを行った結果であるが、従来法は後頭部優位ながらも全体的に電位が分布
しているのに対し、SD法ではかなり後頭部に限局した電位分布となった。
深部脳波については、脳磁波データから求めたダイポールと比較する実験を行ったが、
うまく導出することはできなかった。原因としては、導出方法そのものに関する問題、
雑音の影響などがある。これらの問題ついては、今後もっとたくさんの種類の脳波を
解析しつつ検討していきたい。
5.まとめ
本研究では、脳波導出法としてSD法を用いて、脳の上半球の活動についてリアルタイム
に可視化できるシステムの開発を目指した。システムについてはまだ開発の途中であるが、
SD法についての有効性、問題点などが確認できた。
今後は、深部脳波の導出に関してその理論の検討を行うとともに、より多くの脳波、脳磁波
データによる検証を進めていくつもりである。また現在開発中のシステムについても、
頭部三次元モデルや表示方法、信号処理技術などの改良を行っていきたい。
6.参考文献
[1]B.Hjorth :
Source derivation Simplifies Topographical EEG Interpretation,Amer.J.EEG
Technol.,20,121-132(1980)