プロジェクタを搭載する複合現実感システムの構築
狩塚俊和
1.はじめに
コンピュータを身につけられるほど小型化して,常時利用を可能にするウェア
ラブルコンピュータの開発,研究が行われている[1].そこで,ユーザの自由な
行動状態において複合現実感(MR)感覚をユーザが得られる事は,非常に有益な
ものとなる.本研究では,プロジェクタを装着するウェアラブル複合現実感シス
テムを提案する[2].
テクスチャ投影方式は,現実空間に存在する物体にコンピュータ上で合成した
表面属性情報(テクスチャ画像)を光学的に重畳させるシステムである[3].こ
の方式をユーザの様々な環境や行動状態において使用できるウェアラブルコン
ピュータで実現することで,手近な投影対象に,HMDなどを用いる事なく,コン
ピュータで実時間に作製した画像を光学的に重畳させユーザに情報を提示する事
ができる.
2.試作システム
本試作システムは,投影対象とウェアラブルシステム本体からなる.本体は,
赤外線投光モジュール,画像センサ(COGNEX社 In-Sight1000),コンピュータ,
プロジェクタ(Compaq社 MP2800)が一体化した構造をしている.ウェアラブルシ
ステム本体は,バックパック型でありユーザの背後からプロジェクタで投影を行
う方式である.バックパック型は,ユーザに対する負担が少なく,なおかつ,手
元の作業に支障がない利点がある.投影対象には,再帰性反射材によるマーキン
グが施されている.再帰性反射材とは光を入射した方向に反射する性質を持って
いる素材である.
試作として,平面白色実物体の投影対象にテキスト情報と動画情報を表示させ
る事を目指した.画像処理部を簡略化するために,本試作システムでは赤外光を
利用している.つまり,赤外線投光モジュールを用いて赤外線を投影対象に投光
する.投影対象に添付された再帰性反射材によって反射した赤外光を赤外線フィ
ルタを通して画像センサで撮像する.得られた画像情報から投影対象の位置を認
識する.そして,算出された投影対象の座標から,コンピュータによりテクス
チャ画像を作製しプロジェクタより投影対象に位置を合わせて投影を行い光学的
に重畳させる.投影対象毎に添付されたマーキングの相違によりページ判定を行
い,投影情報をインタラクティブに変更可能とした.さらに,この試作システム
を用いたアプリケーションとして,自然に本をめくるようなインタラクションを
与える事で,表示情報を変更する事ができるMRマニュアルを提案,実装した.
また,投影対象を掲示板のような壁などに情報呈示することを考え,実装した.
3.結論
本研究では,プロジェクタを装着するウェアラブル複合現実感システムを提案
し,バックパック型のウェアラブル試作システムを構築した.さらに,白色平面
実物体を投影対象として,テキスト情報と動画情報を提示する基本ソフトウェア
の開発を行った.二つのMRアプリケーションの提案と実装を行った.その結果,
テクスチャ投影方式を採用する事で,ウェアラブル環境において,ヘッドギア等
を装着する事なく,MR空間を実現できる事を確認できた.装着ユーザだけでな
く,システムを装着していないユーザも同時にMR感覚を享受できる事を確認
し,その有用性を示した.
参考文献
[1] 伴,佐藤,千原,ウェアラブルな複合現実感システムに関する検討;日本V
R学会第5回大会論文集,pp393-394(2000).
[2] 狩塚, 佐藤, 井口, 小型プロジェクタを用いたウェアラブル複合現実感シス
テムの構築;2002年信学総大(発表予定).
[3] 楠本,内田,佐藤,井口,テクスチャプロジェクション方式複合現実感ディ
スプレイ;日本VR学会第5回大会論文集,pp.419-420
(2000).