道具の持つアフォーダンスを利用した触覚フィードバックデバイス

池田洋一

1. 研究背景

 わかりやすく使いやすいインタフェースの研究が数多く進められている.

本研究では,情報の操作を,日常的な道具を使った物理行為に置き換えることを

提案する.また,自然で直感的な操作を行うために,道具の形状を模し,その

アフォーダンスを利用した情報操作デバイスに触覚フィードバックを組み込

むことを検討する.

 

2. 道具型触覚フィードバックデバイス 

ペットボトル型デバイス:情報の量をサーボモータを利用した押し込み感で,

情報の新旧をペルチェ素子による温度変化でフィードバックする.サーボモータ

の軸に梁を取り付けて,ペットボトルをユーザが押し込むことのできる最大量を

変化させている.また,ボトル内壁と梁との間をスプリングでつなぎ,押し込む

際の応力を調整する.ペットボトルが持つ"液体を入れる"というアフォーダンス

に基づき,情報をボトルに蓄えるといったメンタルモデルを構築するのが狙

いである.

ピンセット型デバイス:ピンセットを模したデバイスにおいて,情報の量を

ギヤードサーボモータを利用した反発力でフィードバックする.ピンセットを閉

じる際の物理的な抵抗感を,モータの両端電圧を変えることで制御している.

このデバイスはピンセットが持つ"物体をはさむ"というアフォーダンスを利用

している.

 

3. アプリケーション

 試作した道具型触覚フィードバックデバイスを利用するアプリケーション

として以下の二つを作成した.

文書編集アプリケーション:ペットボトル型デバイスを使用し,スポイト

のようにボトルを押し込んでから離すという操作で,文書のコピー&ペースト

を行う.ボトルの押し込み量でコピーするテキストの量を調節する.コピーを行

うと,ペットボトル中で回転型サーボモータに固定された可動梁がコピー量に応

じて回転し,ボトルを押し込める量が減少する.またペーストを行う場合には

可動梁ごと押し込む.つまり,ペットボトルの押し込み感をフィードバック

することで,文書がボトルの中に入る感覚や中に入っているものを押し出す感覚

を与えていることになる.また,操作する文書の新旧情報をペルチェ素子によ

る30℃〜40℃の間の発熱で表現する.新しい文書を扱う場合は温かくなり,

言葉通りの"ホットな"感覚を与える.逆に古い場合は温度が低いので"冷めた"

印象を与えることになる.

音楽選択・再生アプリケーション:ペットボトル型デバイスにおいて,ボトル

を押し込んで離すことで楽曲を選択し,スピーカー上で押し出すことで楽曲が

再生される.ピンセット型デバイスでは,楽曲の上でピンセットを閉じて選択

し,スピーカー上で開いて再生となる.楽曲を選択すると,ペットボトルの押

し込める量が減ると同時にペルチェ素子が楽曲の新旧に合わせて発熱し,

ピンセット型デバイスでは開こうとする反発力が増大する.

 

4. 実験

 被験者に音楽選択・再生アプリケーションを操作してもらい,本システムの

評価を行う.評価方法はアンケートによる主観評価である.

実験1:被験者に各デバイスの操作方法を説明し,楽曲の選択,再生を繰り返

させる.その後,新旧を表す温度と曲数を表す押し込み感のフィードバック

をそれぞれ4段階で,曲数を表す抵抗感を3段階で提示し,段階を判別させる.

 実験1のアンケート結果から,情報の新旧を温度で,情報の量を押し込み感

および抵抗感でフィードバックすることの妥当性を確認した.また,被験者が

ペットボトルで曲を押し出す感覚や,ピンセットで曲を放す感覚を得

ていることがわかった.

実験2:被験者に各デバイスの操作方法を教示せずに,楽曲を選択,再生

させる.その後,デバイスの触覚フィードバックが何を表しているか考

えさせる.また,マウス操作との比較を行った.

 ペットボトル型デバイスでは,直観的に操作方法がわかりにくいが,

ピンセット型デバイスは,直観的に操作可能であることがわかった.また

機構上の問題点によりマウスより快適な操作とはならなかったが,マウス操作の

経験がない被験者には,本提案デバイスの方が有効であった.

 実験1・2を通して,被験者は二つの道具型触覚フィードバックデバイスの

操作はすぐ理解でき,楽しく,今後使用したいと回答した.

 

5. 結論

 道具を模した形状によってアフォーダンスを高め,操作感覚向上のために触覚

フィードバックを付加した道具型触覚フィードバックデバイスを提案した.

そして評価実験により,提案するデバイスが直感的にわかりやすい

インタフェースの構築,および操作感覚の向上に有効であるという知見が得

られた.