液晶ディスプレイキューブを用いた照明環境の再現
学籍番号:90180105 井口研究室 中山浩佑
1.はじめに
現在、複合現実感システムにおける画像生成法としてモデルベースによる手法とイメージベースによる手法が数多く研究されている。モデルベースによる手法では物体の形状や反射特性といった物理パラメータが必要であるため複雑な形状を持つ物体には適用が困難であるといった問題がある。そのため、モデルを必要とせず実写に基づく手法としてImage-
Based Rendering(以下、IBR)の考え方があり、このIBRにおいては視点変化による物体の見え方及び照明環境の影響による光沢感の表現が重要な要素となる。そこで、本研究では照明環境の影響に注目し、照明環境の再現を目的とした新たな照明システムを提案する。
2. 照明環境の記録再現
IBRの考え方に基づいた手法では、実物体の撮影時の照明環境と撮影した実物体を表示する際の照明環境を同じくする必要がある。これは、表示する際の照明環境を記録し、照明システムを用いて記録した照明環境を再現し対象となる実物体を撮影することにより実現可能である。本研究では、記録した照明環境を再現するための新たな照明システムを提案する。
従来のロボットアーム等を用いた照明システムには光源の色・形状変化を行う際に光源の切り換えが必要である、照明は一方向からのみで多方向からの同時照明は設備上困難であるといった欠点があった。そこで本研究では液晶ディスプレイの発光特性を利用し、映像表示装置としてではなく照明装置として用いることで光源の色・形状変化を効率的に行え、さらに複数の光源による同時照明が可能な照明システムを新たに提案する。
3. 液晶ディスプレイキューブ
提案する新たな照明システムは液晶ディスプレイ6枚を立方体状に内向きに設置した構造となっている。本研究ではこのシステムを液晶ディスプレイキューブと呼ぶ。記録した照明環境を対応する各ディスプレイに表示することにより、キューブの中心に配置した対象物体に対して任意の全周照明環境の再現を行う。また、内包した小型カメラを用いることで任意照明環境下における対象物体の撮影も可能である。
3. 明度・色補正
液晶ディスプレイは正面からと斜方からとでは明度と色が異なる偏角異方性の影響が大きい。そこで、この角度と明るさの関係を測定し、これを逆算することでこの影響を軽減した。
4. 実験
球面鏡と望遠カメラを用いて環境の全周画像を取得し、環境光を対応する各液晶ディスプレイに表示して内部の対象物体を照明した。この際の対象物体の様子を内包する小型カメラにより撮影し、実照明環境下における対象物体の撮影画像との比較を行った。
5.結論
本システムで再現した照明環境下での撮影画像は実照明環境下での撮影画像と比較すると対象物体の質感は表現できているが、色合いや明度の分布に違いが見られた。これは液晶キューブ内と実環境下での分光特性が違うということが原因として考えられる。また、本実験では2種類の露光時間で撮影することでカメラ及び液晶ディスプレイのダイナミックレンジを仮想的に大きくしたが、2種類の撮影画像を合成する際には露光時間とカメラの受光量には線形性が成り立つものとして露光時間の比率分だけ重み付けを行って合成した。しかし、本来は個々のカメラによって感度特性が変わるといった可能性があるので、より高精度にダイナミックレンジを広くするためには露光時間と受光量の関係の非線形性を測定する必要があると考えられる。
今後は、より高精度に照明環境を再現するためにカメラの特性等の計測が必要である。また、本システムでは液晶ディスプレイのフレーム部分の照明が再現できないといった問題があるためシステムの再設計も検討する。
参考文献
1)Paul E. Debevec. Rendering
Synthetic Objects into Real Scenes:Bridging Traditional and Image-Based
Graphics with Global Illumination and High Dynamic Range Photography. In
SIGGRAPH 98, August 1997.
2) 中山, 佐藤, 井口, 液晶ディスプレイキューブを用いた照明環境再現, 02年 信学総大(発表予定)