むだ時間部を補正した繰返し制御系の設計法
生地 正
[1]はじめに
周期的な外生信号に追従するサーボ系として繰返し制御系が提案されている(文献[1]).ただし,問題点として厳密にプロパーな系に対しては高周波成分が追従できないことが導かれている.その方策として,ある程度の追従特性の劣化を認める代わりに,内部安定性を保証するためにローパスフィルタを挿入した修正繰返し制御系が挙げられる.しかし,修正繰返し制御系は制御器のゲインのピークが本来あるべき周波数からずれてしまう問題がおき,所望の制御特性が十分に発揮されない.また,ローパスフィルタの代わりに定数ゲインを挿入する方法が挙げられているが,ローパスフィルタを用いる方法より外乱に弱い.そこで本研究ではむだ時間部を補正し,追従特性の保持及び外乱に対して影響を抑える繰返し制御系について考察する.
[2]繰返し制御系
周期Lの周期的な外生信号に対して追従するためには内部モデル原理よりexp(-Ls)なるむだ時間要素を閉ループ内に組み込むことが必要である.しかし,厳密にプロパーな系に対しては高周波成分が追従できない.実用上高周波成分に対するトラッキングは必要ないと考えるとむだ時間要素の前にローパスフィルタを挿入することで解決される.これが修正繰返し制御系である.これに周期的な信号を入力すると出力応答と操作量は比較的良好な結果が得られるが,補償器の周波数応答を見るとピーク周波数が本来あるべき位置からずれている.これはローパスフィルタを挿入することで位相遅れが生じているためで,これは周期信号Lの内部モデルとして機能していないことを意味する.そこでローパスフィルタの代わりに定数ゲインにする方法が提案されている.この方法ならば位相遅れは防ぐことができるが,その代わり外乱に対して影響を受けやすくなっている.
[3]むだ時間部を補正した繰返し制御系
周波数特性を保持しつつ上記の外乱に対する方策として,むだ時間要素のLをある適当なL'に代えることでローパスフィルタでの位相遅れを補正し,周期信号モデル内のむだ時間を修正できる.ローパスフィルタと周期信号モデルexp(-Ls)からなる補償器のモードと架空の周期信号モデルexp(-L~s)のモードが等しいと考え,これよりdL=L~-Lが求まり,L'=L-dLとすることで近似的に補正することができる.これによって出力応答,操作量,周波数特性と外乱に対し,良い結果が得られた.
[4]おわりに
繰返し制御系において,むだ時間要素のLを適当な値にすることにより,追従性能の向上を達成することができた.
参考文献
[1]原:繰返し制御,計測と制御,25-12,1111/1119(1986)
[2]澤井:外生信号に対する位相遅れを補正した繰返し制御系の設計,大阪大学基礎工学部特別研究(1999)