オントロジー記述環境のための複数オントロジー間における概念依存関係管理機能の設計
砂川英一
概要:
1.研究の背景と目的
溝口研究室では,知識の体系をあらわすオントロジーの記述環境の開発が行わ
れている.一般に,オントロジー構築においては,対象となる世界の概念を種類
やレベルごとに分けて複数の部分オントロジーを構築し,それらを組み合わせて
利用することが多い.そうすることには,オントロジーの再利用性が向上するな
ど様々な利点があるものの,1つのオントロジーの定義内容が変化した時に,そ
れが他のオントロジーへも影響し,全体で整合性の維持が難しくなる等の問題も
生じる.
そこで,本研究では複数オントロジー間における相互関係を管理し,定義内容
の変化への追従を支援することを目指す.
2.オントロジー間関係の管理
オントロジー間の依存関係には,以下の2通りがある.
@is-aを基にした継承関係
上位のオントロジーで定義されている概念定義が,下位のオントロジーに含
まれる概念に継承されている
Aクラス制約を基にした参照関係
概念定義のためのクラス制約として,別のオントロジーで定義される概念を
使用している
3.変化への追従方法
依存している側のオントロジーは,その依存先オントロジーの変化の影響を受
ける.例えば継承関係において,継承された上位オントロジー内の概念定義に変
更が加えられた時,下位オントロジーもそれに沿って何らかの変更をしなければ,
整合性を保つことができない.この時,追従の仕方は一般に次の3通りがある.
T,依存関係を切り離し,独立したオントロジーへと変化する.
U,変更前のオントロジーを古いバージョンとして残しておき,古い方との関
係を維持する.
V.変更の仕方に沿って依存している側でも定義を変更し,依存関係を新しく
する.
特にVの追従方法に関して,本研究では概念定義の変化を16のパターンに分
け,2節で考察した関係の種類に対して,それぞれの場合でとれる追従の選択肢
を考察した.I,Uと合計すると,他のオントロジー変化の影響に対して38通
りの追従方法が選択可能となる.
4. 機能設計
以上の考察を,当研究室で開発されている記述環境に付加する機能として設計
した.設計画面は大きく,オントロジー間の関係をグラフィカルに表示する部分
と,依存関係に携わる概念に分かれる.
さらに,追従支援機能も設計した.3で考察した内容を基に,追従が必要な変
更がなされた時には,変更の種類と可能な追従の方法が提示される.オーサはそ
こから適切な追従方法を選択することで,整合性を保つことが出来る.
5.結論
本研究で設計した機能は現在開発中であるが,実装されれば,オントロジー記
述がより容易になると思われる.今後はオントロジー間の関係についてさらに深
い考察を行い,オントロジー間の意味的な関係に基づく支援なども開発を行う予
定である.