相関ルールを利用した視線履歴からの知識獲得
谷内田研究室 90140131 藤本武司
1 はじめに
視覚は最も扱う情報量の多い感覚器官であり,直接接触することなく環境との相互
作用を可能にする.そのため視線は,知的活動する人間の思考や行動を反映,示唆す
る有益な情報を含んでいる.そこで視線の軌跡と注視点を視線履歴として可視化し,
他者と共有することで,他者だけでなく自己をも含めた視線という感性情報を媒体と
した新たな創発機構が実現されると思われる.しかし視線履歴から他者の意図を直接
読み取ることは困難であるため,知識情報として意図を自動抽出するシステムを構築
することが望まれる.本研究では相関ルールを用いて,視線履歴上に潜在する知識を
抽出する方法を提案する.本研究での視線運動とは,視線移動と連動させたマウスの
移動動作であり,仮想平面上でのマウスの連続移動を計測する.注視点はユーザがマ
ウスのクリックにより直接入力する.そこで注視点入力直前の視線挙動を相関ルール
により定式化し,同様の挙動が現れる箇所を潜在注視点として抽出する.
2 視線運動に潜む規則性
人間の視線運動の中でも,注視点に到達する直前の視線挙動について考える.目的
の対象(注視点)へ向かっている時の視線挙動は,目的なく探索している時や浮遊し
ている時の挙動と比べ,明らかにその特徴,性質が異なるはずである.そこでこの違
いを利用して,注視点へ到達する直前の視線挙動に規則性を見い出す.本研究の場
合,注視点はマウスのクリックによってユーザの興味が直接教示された箇所であるか
ら,興味は示したが注視点として入力するには至らなかった箇所も存在することにな
る.これを潜在注視点とよぶ.注視点,潜在注視点共にユーザの興味を示す箇所であ
るから,潜在注視点直前でも注視点入力直前の挙動と同様の規則性を持つと考えられ
る.これを利用し,視線履歴から潜在注視点を抽出する.
3 相関ルールによる規則生成と潜在注視点抽出
相関ルールにより注視点入力直前の挙動を定式化する.まず以下の操作によって,
視線履歴から相関ルール生成に必要な入力データベースを作成する.
・視線履歴の区間分割
・属性値(直線度,速さ,加速度)の算出と離散化
このデータベースにAprioriアルゴリズム[Agrawal94]を適用し,属性値間の共起性に
よる相関ルールを生成する.例えば,次のような相関ルールが出力される.
If{<速さ,遅い>,<加速度,小さい>},then{<注視点直前,yes>}
confidence=75.0%
これは,注視点入力直前の挙動は75%の確率で「速さが遅くなり,加速度は小さく
なる」というルールである.「遅い」や「小さい」などはユーザごとに閾値が異な
る. 視線履歴上で,このルールの条件部を満たす挙動を見つけることで潜在注視点
を抽出 することができる.
4 潜在注視点の抽出実験
実験により潜在注視点の抽出精度を評価した.実験環境にはネットオークションペ
ージのキャプチャ画像を使用し,被験者にマウスを移動しながら興味を持った商品
5つを注視点として入力してもらった.そして被験者の視線履歴から得られるルール
を元に抽出した潜在注視点と,アンケートにより得られた被験者の真の潜在注視点と
の整合性を検証した.
アンケートにより得られた被験者の真の潜在注視点集合と,システムが抽出した潜
在注視点集合とを適合率(Precision)と再現率(Recall)によって評価する.被験者9人
合計の評価 結果を比較手法と合わせて以下に示す.
本手法(被験者個人の相関ルールによる抽出)[74.1,69.0]
比較手法1(被験者全員共通の相関ルールによる抽出)[60.9,48.3]
比較手法2(注視の定義に基づく抽出)[51.0,86.2]
[Precision(%),Recall(%)]
適合率,再現率共に高いことが理想である.しかし,潜在注視点を可視化し,ユー
ザ側へフィードバッ クする支援効果を考えると,適合率つまりシステムが抽出する
潜在注視点の信頼性が 高い方が望ましい.なぜなら,いくら再現率が高くても,適
合率が低い(誤抽出が多 い)と真の潜在注視点がどれであるかの判断がユーザ任せ
となる.一般に他ユーザの ことを正確に理解できるユーザは少ないと考えられるた
め,真の潜在注視点がどれで あるかをユーザ自身が正しく判断することは極めて難
しい.これより本手法の有効性が確認できた.
5 結論
本研究では,人間の視線運動に着目し,注視行動直前の視線挙動を相関ルールによ
り定式化することで,視線履歴から人間の知識情報として潜在注視点を獲得する方法
を提案し,その有効性を確認した.