組織知の創造・継承における協調学習デザイン支援システム
学籍番号:90120082 溝口研究室 武内 雅宇
1. はじめに
組織においては,アイデンティティーの根幹である組織固有の知を絶やすことなく継承し,絶えず創造の気運を保つことが重要とされている.様々な情報・知識が電子化され不揮発性の高い情報メディアで維持されるようになっているが,人間の活動を含めて総体としてみれば,知が情報メディアに埋没しつつあるという悲観的な見方もある.
我々は知の継承・創造を目的として議論・討論を繰り返している.また,徒弟制度にみられるような人の相互の関わりの中で知の継承を維持している活動も多い.電子化ドキュメントなどに人が外化した知識を管理することに加えて,情報システムが人と人が知を交流することを支援する機能を実現することが期待されていると言える.知識管理・協調作業の計算機システムによる支援(KM,CSCL)は,そのような期待に応える技術と考えられている.
このような背景を踏まえて本研究では組織知の創造・継承活動モデル(デュアルループモデル:DLM)を構成し,それに基づいた組織知の創造・継承支援環境Kfarmの開発を行っている.本研究ではKfarmの協調学習場のデザイン支援機能の実現を目指している.
2. 協調学習デザイン支援システム:iDesignerCL
iDesignerCLは,組織知の創造・継承活動を活発にするような協調学習場の構成を支援することを目的にしている.本研究では,iDesignerCLをKfarmに組み入れる形で機能するように設計した.ユーザが行った様々な知の創造・収集活動はKfarmによってモニタされ,組織知の管理に責任を持つ人(KP:Kproducer)に示されることになっている.KPが担う主な作業は,協調学習場を設定すべき状況の認識・テーマ設定,メンバ設定などである.iDesignerCLとKfarmは連動してこの作業を包括的に支援する.支援の局面は概ね以下のようになっている.
1. Kfarmは組織活動をモニタし協調活動の設定が必要となりそうな状況を検出しKPにその状況を知らせる.
2. (KPが場の設定を決定した場合)次のようなデザインの参考情報・ガイダンス情報を提供する.
* 場の構成モデル(後述)
* 協調学習活動の典型系列を示すフローパターン
* 組織知のモデル
3. (デザインが完了すると)デザインの内容を参加者に通知し,その実施のための環境を提供する.
3. 協調学習場のモデル
協調学習場をデザインするために必要となる主要な項目として目的・話題・グループの3つを表1にまとめている.
表1:協調場の構成の概要(一部)
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|目的 | 協調活動によって期待される個人・集団の知の変容の内容.|
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|話題 | 協調活動目的に含まれる知と,それに関連する知の内容. |
| | 協調活動で議論の対象になる.
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|グループ| 協調活動場に参加する人の集団.集団における個人の役割 |
| | なども表現する.
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場の例としては,知の創造の目的の下で,アイデアを出す役割の人と評価・検討する役割の人が,話題について議論する場がある.@アイデアを出す人は提案を行い,A評価・検討する人を交えて意見交換をして,知の創造を行う.
iDesignerCLではこのような協調学習場のモデルに基づいてユーザの協調学習デザイン活動をガイドする機能を実現している.
4. 結論
本研究では,協調学習デザイン支援システムiDesignerCLの設計を行った.今後は,学習理論に基づいて協調学習を明示的な概念体系として構築した協調学習目的オントロジーとの対応も含めて協調学習場の概念をオントロジーとしてより明確にする必要がある.