協調学習教材設計に関する一考察
溝口研究室 唐木 拓磨
1. はじめに
インターネットを基盤とした計算機による教育支援の新しい形態として,協調学習支援システムの研究・開発が活発に行われている.そこでは学習者間の相互作用により,対象とする問題に関する思考能力及び,それをモニタする能力,他者の思考活動に対する評価能力,さらには自己と他者との相違の認識を行う能力の向上が期待される.グループ学習は,そのような能力を育成する場であり,その場を教育的に妥当な意図のもとで構成するのが教育の専門家(教師・教材設計者)の役割である。
筆者が所属する研究室では,複数の学習システムがネットワークで接続された分散学習環境において,必要に応じて学習グループを構成する枠組みの研究を進めている。本研究では,その枠組みのうえで利用される協調学習教材の構成に関して考察を行い,教育の専門家による教材作成を支援するオーサリングツールを設計した。協調学習教材の作成者は,「いつ,何を目的として」協調学習を行うべきかということを教育的意図をもって設計することになる。
2. 協調学習の支援
我々が開発を進めている協調学習支援システムでは動的グループ形成方式(OGF: Opportunistic Group Formation)を採用している。OGFの通常モードでは,学習者は個別に学習支援システムを通じて学習する。このとき,システムは,学習者の学習状況をモニタし個別指導をしながら,協調学習が適切な状況(協調学習のトリガ)を検知する。トリガを検知すると学習グループの形成を試み,それが成功すると協調学習モードに移行する。
学習グループの形成は,ネットワーク上の分散システム間でのネゴシエーションによって行われる。各システムは,担当している学習者の状況に基づいて,協調学習への参加の可否の提示,望ましい学習の形態の要求などを行い,協調学習の話題,学習目的,グループ構成を決定する。システム間でのネゴシエーションが終了すると協調学習に参加する学習者に,その目的と話題がダイアログで示される。協調学習の過程でのインタラクションには,システムは関与せず,学習者は自由に討論することができる。学習グループによって討論の終了が宣言されると,協調学習セッションは終了し,学習者は通常の個別学習モードに復帰する.
3. 協調学習教材
OGFの枠組みの中での学習者は状況の設定(学習目的,役割)を提示されるだけで,基本的に自由に討論することが許される。したがって,協調学習の効果は設定された状況に強く依存する。適切に設定されれば目的を達成する方向に集約するが,不適切であれば討論が発散する可能性が大きい。したがって,協調学習の効果を保証するためには「状況設定の妥当性」が極めて重要となる。本研究では,協調学習の状況を「トリガ」と「学習目的」を中心にして特徴づけることにし,それにより協調学習教材を構成することしている。
4. オーサリングツールの設計
教育の専門家(オーサ)は,個別学習教材に基づいて,個別学習の過程の中で協調学習に移行するための適切な局面と望ましい協調学習を規定するための学習目的を設定する。本研究では,これを記述するための語彙を学習理論と対応づけて検討し,それを用いたオーサリングツールを設計した。図1にその想定画面を示している。「加速度と質量の関係」に関する学習の過程で発生する行き詰まりをトリガとし,その原因となる誤りを題材にして理解を深めるような協調学習の場を設定している
5. まとめ
本研究では,協調学習教材のオーサリングについて基礎的考察を行った。協調学習の状況を適切に設定するために学習理論に基づいて教材の構成を検討した。しかし,理論と実際の局面の抽象度が離れているために,オーサの視点において適切な記述レベルが提供されていない部分がある。今後は,システムの実装を通じて,この点を改善していく。