実空間を介したインタラクションを実現するレンジファインダ
井口研究室 東城 賢司
1. はじめに
近年、計算機の性能向上や通信技術の発展により、工業デザインなどの現場では遠隔地と共同作業を行う際の通信手段として、計算機が用いられるようになってきた。しかし、計算機を介しての通信では、ディスプレイ上の表示と実空間との関係を把握することが困難な場合がある。人間が実空間に対して行った動作を計算機が取り込みネットワークを通じて伝達し、さらにその情報を実空間に提示することができれば、ディスプレイを介さない円滑な情報交換を行うことができる。対象物体にレーザなどを投影して計測を行うレンジファインダは、信頼性の高い距離情報を獲得することが可能である。これまでのレンジファインダでは投影光を単に『計算機による画像解析の補助』として用いてきたが、『人間の知覚の補助』として用いることも可能である。
そこで本研究では、ステレオカメラシステムとプロジェクタを組み合わせたシステムを構築し、『人物の動作の把握』、『実空間への情報の提示』、『レンジフィンダによる形状計測』を行い、これによって実空間を介したインタラクションを実現することを目標とする。
2. 能動的な計測
目的を達成するために必要な情報を能動的に獲得するアクティブビジョンという考え方が、Aloimonosらによって提唱されている[Aloimonos88]。そこで本研究ではこの考え方に基づき、必要な部分だけを計測するレンジファインダシステムを提案する。指揮棒を用いて計測したい物体などを指し示すと、その動作を計算機がカメラを用いて認識する。さらに、指揮棒の延長線上に輝点を表示することにより、計算機が行っている作業が人間にも知覚できるようにする。
3. 指揮棒を用いた輝点表示システム
指揮棒の延長に輝点を表示するまでの流れを図1に示す。2台のカメラを用いて指揮棒の直線の方程式を求め、プロジェクタでその直線を含む平面を投影する。そして、2つのカメラ画面上で指揮棒の直線と投影された線との交点を求め、これらより実空間での交点の座標を求め投影する。
4. 実験結果
指揮棒の直線を含む平面をプロジェクタより投影した様子を図2に、最終的に交点を投影した様子を図3に示す。さらに、指揮棒の動きに応じて輝点が移動するようにしたが、処理速度が遅くリアルタイムに表示させることはできなかった。
5. 考察
始めに指揮棒の直線が正しく推定されているかどうかが、最終的に輝点を表示する際の精度に一番大きく影響することが分かった。その他のプロセスでは、ほぼ誤差なく値が求められていることが確認された。しかし、現在は指揮棒の検出が安定して行えていないので、精度よく求められるように改良したい。
参考文献
[Aloimonos88]J.Aloimonos,I.Weiss:Activevision,IJCV,Vol1, No.4, pp333-356(1988)