地震に対する政府財政上のリスク分散を可能にする
地震債券の提案
田村研究室 瀧上 淳
1. はじめに
わが国は地震の起こりやすい国土の特徴を持ち,常に阪神・淡路大震災のような大規模地震災害のリスクに直面している.この状況下で,政府の財政面のリスクを軽減し,分散する目的で提案されるのが地震債券である.
本研究では,この地震債券に焦点を当て,その発行金額,利率,元本の保証割合を決定するモデルを提案する.また,阪神淡路大震災を参考にした実際のデータをもとに,発行金額,利率,元本保証割合を決定する.そして,地震債券によって政府財政上のリスクが変化することを示す.
2. 地震債券
地震債券とは,大地震が起きれば運用益と元本の一部を復興・復旧資金にまわし,起きなければ高利率を保証する債券のことである.今回想定した地震債券は,満期が10年とする.また,10年以内に地震が起これば以後は発行しないものとする.この想定のもとで発行金額,利率,元本の保証割合を決定するモデルを提案する.
3. モデルの概要
本研究では,発行金額m,利率i,元本の保証割合(1-x)を決定する問題を非線形計画問題として定式化する.
政府は地震債券により地震災害のリスクを最小化させようとする.ここでいうリスクとは地震災害に関する支払額を政府の損害額として,その損害額に関する各年の分散のことである.従って,目的関数を分散とする.また,政府側の制約条件として,地震債券を発行した場合の方が,発行しない場合よりも,損害額の10年間の期待値が小さくなるということをもうける.
一方,投資家側の制約条件として,(a)地震債券で運用する (b)市場で運用する,という2つの代替案に関して,投資家が(a)を選択する,または(a)と(b)とが無差別になる,ということをもうける.
ここで,投資家は各代替案の評価を10年後の収益率rを変数とする効用関数u(r)とその生起確率qに関する重み関数w(q)を用いて評価をすると仮定する.すると,各代替案の評価が次のように書ける.
Fa = w(q1)u(r1) + w(q2)u(r2)
Fb = w(1)u(r0)
この時,投資家の制約条件は
Fa ≧ Fb
となる.
これらの目的関数と制約条件は全て,m,i,xで表されるので,これら3つの変数からなる非線形計画問題として次のように定式化できる.
min v1(m,i,x)
s.t. Fa(i,x) ≧ Fb
E[L1(m,i,x)] ≦ E[L0]
m ≧ 0
0 ≦ i ≦ 1
0 ≦ x ≦ 1
但し,v1,E[L1]は政府損害額に関する10年間の分散,損害額の10年間の期待値であり,E[L0]は地震債券を発行しなかった場合の政府の損害額の10年間の期待値であり,これは定数である.
4. 数値例
5兆円以上の被害額に対して政府は,復興・復旧資金(損害額)として一律3兆円を国費により賄うとし,その地震の発生確率を2(%/year),市場金利を1.8(%/year)とした場合の結果を次に示す.
発行 金額 : 1兆34億円
利 率 : 2.27(%/year)
元本の保証割合: 91.5(%)
この時,損害額の10年間の各年における期待値は717億円であった.また,地震債券を発行しない場合の10年間の分散v0と発行した場合の分散v1とで
V0 > v1
であった.この発行金額,利率,元本の保証割合の地震債券によって,政府は投資家に財政上のリスクを分散する結果を表している.
5. おわりに
今後は地震発生後も連続して発行した場合のモデルについて検討していきたい.