多重回答効果を考慮したコンジョイント分析の調査設計に関する提案
田村研究室 清水 康仁
コンジョイント分析は多属性価値評価手法であり,近年環境評価分野への応用が進められている.本手法では,評価対象をプロファイルと呼ばれる属性の束で表
現し,プロファイルに対する選好を人々に尋ねる.そのとき回答は選択や評定といった形式で行われる.このようなアンケートを用いて人々の表明選好(Stated
Preference: SP)に関するデータを集め,それを基に効用関数を推定することで価値を算出する.ここで,アンケート回答者に対し,質問を繰り返し行う点がコン
ジョイント分析の特徴の一つであるが,その過程において回答者の表明選好が変化する(多重回答効果)可能性がある.
そこで本研究では,信頼性を高める「学習」と低下させる「疲労」の二つの作用で多重回答効果が構成されていると考え,コンジョイント分析における多重回答効果の存在を検証する.さらに多重回答効果を考慮して,全てのサンプルから信頼性の高いサンプルを抽出する方法を提案する.
本研究では多重回答効果の検証を行うため,森林レクリエーションを対象とし,対象を紅葉樹や旅行費用などの7つの属性ベクトルXで表現し,アンケートを行った.アンケート対象者は大阪府北摂地域住民50人であり,アンケート票を回答者一人に対し25種類提示した.ここで質問順序を一つずつずらして回答者に提示することで,アンケート提出順序毎に含まれるアンケート構成を同一にした.
アンケートで得たSPデータから,
V(X) = ΣβX
で表される回答者の効用関数の各属性のパラメータβの推定を行う.
ここではi回目からj回目の回答のみを用いて,時間帯i〜jにおける効用関数V_{ij}(X)の推定を,j-i=4に固定してi=1から順に行った.その結果,回答開始直後は学習作用により信頼性が高まり,その後疲労作用により信頼性が低下しており,多重回答効果の存在が確認された.
次いでSPデータから,信頼性が高い良質データの抽出法を提案する.手順は以下の通りである.
- 全回答を質問順序によりセットに分割
- 推定に用いないことで、推定値の分散が最も低くなるセットを破棄する
- 2.を1%水準で有意な推定が行えなくなるまで繰り返す
手順は推定値の分散が小さくなるように,低質なデータを破棄することで良質なデータを残すことを意図している.そしてデータを破棄するほど推定の有意性は低下することを考慮し、手順3.で有意性の制約を入れている.
本アンケート調査より得られたSPデータから,上記の手順より6,7,12,13,16,18,22回目の回答が良質なデータとして抽出された.表1は推定結果の信頼区間の幅を推定値で割った値を用いた,抽出データと全データの推定結果の比較である.その結果から抽出データを用いたほうがより信頼性が高い推定であることが示された.
表1 信頼性の比較
|
抽出データ |
全データ |
紅葉樹 β1 |
0.051 |
0.063 |
川 β2 |
0.750 |
0.999 |
滝 β3 |
0.804 |
1.127 |
湖 β4 |
0.428 |
0.558 |
駐車場 β5 |
0.448 |
0.508 |
遊歩道 β6 |
0.471 |
0.449 |
旅行費用 β7 |
-0.052 |
-0.059 |