公的年金制度の分析と積立方式への移行の提案
田村研究室 廣井 由貴子
1. 課題設定
現在,年金制度の問題点は,少子高齢化による年金受給率の世代間格差である.これを受けて,1999年に厚生省は現行「賦課方式」の枠組の中で,保険料率および受給額の変更を骨子とした年金制度改革案を提示した.一方,欧米では世代間格差を是正する「積立方式」が採用されている.そこで,本研究では,第1に世代間格差の観点から厚生省案の評価を行う.第2に,賦課方式から積立方式への移行の条件を,その移行に伴う国庫負担の観点から検討する.
2. 厚生省案の評価
厚生省案を用いた場合の世代間格差を評価するため,個人の生涯賃金に対する生涯保険料額の割合(生涯保険料率),生涯賃金に対する生涯受給額の割合(生涯受給率)を算出した.その結果,1975年以前に生まれた人は受取超過となり,それ以降に生まれた人は支払超過となることがわかった.将来的に世代間の不平等は全く解決されないといえる.
3. 積立方式への移行
ある時点において,賦課方式を積立方式に変更した場合,退職世代への年金給付のための財政が必要となる.そこで,必要となる国庫負担額を算出するために,積立金が負にならないことを制約として,各年の国庫負担の総額が最小となることを目的とした線形計画問題を作成した.Aをn×n行列,fをn次元ベクトル, xをn次元ベクトル,bをn次元ベクトルとする.
min f t x
s.t. Ax + Ab ? 0
x ?0
xi:i年目の国庫負担額
bi::i年の収支差引残高
fi:i年目の財1の現在価値
μij:(i-j)年前の積立金に対する利子率
aij=μij+1 if i>j
aij=1 if i=j
aij=0 if i
この問題において n=101 とし,2000年を移行開始年として2100年までの国庫負担額を算出した.これにより,2000年から100年間は,現在価値で総額約318兆円の国庫負担額が必要であることがわかった.また,賃金上昇,物価上昇および運用の各率が予測を下回った場合の国庫負担額を算出すると, 賃金上昇が低迷すると年金財政の絶対値が減少し,負担額も低い値になる.物価上昇および運用利率が低迷すると将来の貨幣価値が比較的上昇することから,このような結果になると考えられる.これらの国庫負担が,積立方式への移行の条件となる.
4.今後の課題
国庫負担を国民からの税徴収の形で補うと,世代間で負担が不平等となる.今後の課題として,世代間格差を本当の意味で緩和し,将来世代にとっても現役世代にとっても公平であるような年金制度を考えることがあげられる.