ハイブリッドシステムで構成された複合システムの安定解析
潮研究室 高尾 祐介
1.はじめに
本論文ではサブシステムがハイブリッド状態変数を
持つ複合システムの安定解析を行う.
複合システムはリヤプノフの意味で安定であるサブシステムから構成される.
複合システムが安定であるための十分条件をLMIで表現する.
複合システム全体のリヤプノフ関数は各サブシステムの
リヤプノフ関数の線形結合で表し,
サブシステムが安定であるという仮定を利用する.
2.モデル
次のような J個の線形ハイブリッドサブシステム S_i
dx_i(t)/dt = A_i(m_i(t)) * x_i(t)
m_i(t) = p_i(x_i(t),m_i(t^-))
が結合して,次の複合ハイブリッドシステムが構成されているとする.
dx_i(t)/dt = A_i(m_i(t)) * x_i(t) + sum_{j=1}^J{A_{ij} * x_j(t)}
m_i(t) = p_i(x_i(t),m_i(t^-))
i = { 1,...,J }
ここで,n_i 次元ベクトル x_i(t) は i 番目のサブシステム S_i
の連続状態, m_i は有限の要素を持つ離散状態である.
その要素の集合を M_i とする.
m_i(t) は区分的に定数である.
ここで, m(t) は右連続な関数であり, m(t^-) = lim_{e -> 0}{m(t-e)} である.
ハイブリッド状態空間
H_i = R^{n_i} * M_i は, l_i 個の領域 OMEGA_{i,q_i} (i = 1,...,J,
q_i = 1,...,l_i ) に分割されているとする.
3.安定解析
自律ハイブリッドシステムは,
次の3つの条件を満たすリヤプノフ関数が各領域ごとに存在すれば,
安定であることが知られている.
- 領域内の任意の連続状態に対して有限の正の値を持ち,平衡点である原点においてのみ0となる.
- 時間微分が非正である.
- 連続状態の遷移が別の領域に移るとき,リヤプノフ関数は減少する.
以下ではすべてのサブシステムには上の条件を満たすリヤプノフ関数
(~x_i)^T * ~P_{i,q_i} * ~x_i ( ~x_i := [x_i^T 1]^T )
が存在し,安定であると仮定する.
そこで,全体システムのリヤプノフ関数の候補 V(q,x) をサブシステムの
リヤプノフ関数 (~x_i)^T * ~P_{i,q_i} * ~x_i の線形結合とする.
V(q,x) := (~x)^T * ~P(q,d) * ~x
:= sum_{i=1}^J{ d_i * (~x_i)^T * ~P_{i,q_i} * ~x_i }
x := [(x_1)^T ... (x_J)^T]^T
~x := [x^T 1]^T
q := [q_1,...,q_J]^T
このとき,ハイブリッドシステムの安定条件を用いて
複合ハイブリッドシステムの安定条件をLMIとして得ることができる.
特に3つの安定条件のうち条件1,条件3が自動的に満たされる.
その結果,安定性の条件が,それぞれの領域の全状態空間に対して,
(~x)^T * { ~P(q,d) * ~A(m) + ~A(m)^T * ~P(q,d) } * ~x <= 0
を満たす d_i > 0 の存在性に帰着される.
ただし ~A(m) は複合ハイブリッドシステムを1つのシステム
d~x/dt = ~A(m) * ~x
と見なしたときのシステム行列である.
上の結果は,線形結合は共通の d_i > 0 に固定しているが,
それぞれの領域に対して個々に d_{i,q_i} > 0 を求めれば,
計算量は増えるが,緩い条件を導くことも可能である.
また,各サブシステム S_i の l_i 個の領域の
連続状態空間 OMEGA_{i,q_i}^x が
OMEGA_{i,q_i}^x := { x in R^n |
(~x)^T * G_k^{i,q_i} *~x >= 0, k = 1,...,s_{q_i} }
のように, s_{q_i} 個の集合の積集合で表されるとすると,
S-procedure を用いた安定条件の導出が可能となる.
4.おわりに
複合ハイブリッドシステムのリヤプノフ関数を,
サブシステムのリヤプノフ関数の線形結合とした場合の安定解析を行った.
サブシステムのリヤプノフ関数の線形結合とすることにより,
判定すべき条件を減らすことが可能となった.
さらにS-procedureを用いることによって,計算が効率的にできるようになった.