3D仮想空間におけるデスクトップの実現と評価
谷内田研究室 大渕 貴士
1. 緒論
現在コンピュータと人間との間のインタフェースにはマウスとキーボードが必要であり、一般生活の中での動作をインタフェースとして用いることはできないため、実際の机の上のよいメタファを与えているとはいえない。そこで本研究では「3Dデスクトップ」システムを提案することで、よりリアルで使い易いインタフェースの実現を考える。
2. 3次元デスクトップ
「3次元デスクトップ」システムは検出部・姿勢推定部・認識部・表示部からなり、各部ではそれぞれ、動きの検出、関節角度変化の測定による姿勢推定、ジェスチャーの認識、画面への表示が行われる。本研究ではこのシステムの表示部に注目して、どのような表示の仕方をすれば、よりリアルで使い易いシステムになるかを考える。表示システムでは、認識部(一部角度抽出部)が送ってくるデータを World Model で処理し、それをもとに実際に画面を表示するという作業を行う。ここでいうWorld Model とは、認識部から送られてきたデータをもとに現実世界を仮想世界にモデル化したものであり、したがって現実世界のメタファとして存在する。またオブジェクトはデータの形でやり取りできるように、なんらかのデータ構造を持つ必要がある。
3. 実験と考察
3.1 実験について
この実験には文書提示システムを利用する。この表示システムは、ユーザーがジェスチャーを行ったことを計測した後で提示を行い、提示が終了してからつぎのジェスチャーの計測にはいる。よってジェスチャーが行われてから提示されるまでの時間が遅ければ、ユーザーに違和感や不快感を与えてしまい真にリアルなインタフェースとはいえなくなる。このことから、どのくらいなら遅延を感じず、さらにどれくらいまでなら許容できるかの範囲を調べることで、ジェスチャー認識に許される処理時間の範囲が推定される。被験者には、データグローブをつけて書類を提示するジェスチャーを行ってもらう。このとき実際に提示が始まるまでの時間を変えることで実験を行った。
3.2 知覚される最小の遅延量
どれくらいから遅延を感じ始めるかを調べる為、恒常法を用いて実験を行う。これは与える遅延の順序をランダムにして、それぞれの遅延の知覚率から閾値を求めるという方法である。遅延時間 0.14(s) を超えると知覚量が大幅に増大しているので、知覚できる最小の知覚量は 0.14(s) だと考えられる。
3.3 許容できる最大の遅延量
極限法を用いて実験を行う。具体的には、反応の鋭いほうから鈍いほうへと順に遅延を与えていき許容できなくなった点を許容限界とする上昇系列(U)、反対に鈍いほうから鋭いほうへと遅延を変化させ許容できるようになった時を許容限界とする下降系列(D)、の2系列についてUDDUUD.....という順に各被験者に実験を行い、それぞれ得られた閾値を平均して全体としての閾値を求める。得られた結果より0.28(s) が許容できる最大の遅延量だと考えられる。
4. 表示法の拡張
実験に用いたシステムは2Dモニターに表示されるため真の意味で3D表示ではない。そこでヘッドマウントディスプレイに画像を出力し、頭の動きと視界の同期を図ることでより現実に近く、3次元的な表示方法を実現した。
5. 結論
心理実験により、知覚される遅延の最小値と、許容し得る遅延の最大値を調べた。この結果から「3Dデスクトップ」システムのジェスチャー認識に許される処理時間がわかった。また表示される画面をHMDに出力することによって、より現実感のある表示方法を実現した。