構音障害診断のための単音節発音明瞭度の定量化に関する一考察
井口研究室 橋本 賢一郎
1. はじめに
高齢化社会を迎え最近福祉が注目されている。
福祉、とくにリハビリテーションの研究は盛んである。リハビリテーションといって
も、大きく3つに別れる(作業療法、理学療法、言語療法)。
構音障害は、言語療法に属し、うまく発音できない障害ことで、原因はさまざまだが
、(1)器質性構音障害(発声器官異常による構音障害。口蓋裂など)(2)運動性構音障
害(麻痺などにより構音運動がうまくできない)などがあげられ、その治療方法とし
ては基本的に言語療法士による構音訓練である。
構音訓練では、まずはじめに、思い通りに口や舌を動かす練習を行う。口や舌が上手
く動かせるようになると、次に単音節の発音、簡易な文章の発音を行う。そしてこれ
ら訓練は、すべて言語療法士が付き添って行われる。
本研究では、構音障害のリハビリテーションである構音訓練の単音節の発声の段階に
注目し、構音障害者が発声した単音節の音声がどれぐらいハッキリ聞こえるか(明瞭
度)を、医師、言語療法士、発声した構音障害者に明示することで、リハビリテーシ
ョンの進行具合を明らかにし、リハビリテーションの支援を行う。また、通院するの
が大変な構音障害者が、自宅で構音訓練が行えるように支援することを目的とする。
2. システム
システムは大きく3つの部分から構成される。
(1)データ入力部:事前に医師や言語療法士の診断により、特定された構音障害の原
因となる症状名、およびその症状が現れる構音障害者の単音節の音声(検査音)をコ
ンピュータに入力する。
(2)判定部:症状名から明瞭度を左右する特徴量を決定し、入力された検査音からそ
の特徴量を抽出し症状別明瞭度を求める。
(3)提示部:判断部で求めた症状別明瞭度を提示する。
3. 呼気鼻漏出
症状別明瞭度を提示するには、その症状の明瞭度はどのような特徴量に左右されるか
を調べなければならない。そこで今回は、器質性構音障害に属する口蓋裂患者の呼気
鼻漏出の症状について、調べてみることにした。
呼気鼻漏出がおこると、子音産生のための口腔内圧が十分に形成されず、そのため各
子音の特徴を表す破裂や摩擦の成分が弱くなる。また鼻孔を閉鎖して構音させると正
常音に近くなる場合が多く、子音産生時に鼻孔から漏れる呼気が、シュー、グーなど
という音で聞き取れることもある。
呼気鼻漏出の症状がある構音障害が発音した破裂音「ぱ(Pa)」の鼻孔開放の場合と
鼻孔閉鎖の場合の波形を比べたところ、鼻孔開放の波形には、鼻孔閉鎖の波形とは違
い先頭にこぶがある。このこぶの部分の音を聞いてみると、シュ−という音だった。
この音が鼻孔から漏れる呼気の音だと思われる。
そこで、呼気鼻漏出の明瞭度が低くなるのは、この呼気のもれる音が、阻害している
のと、呼気が漏れることにより、子音の音の大きさが弱くなると考えた。
4. 聴取実験
呼気鼻漏出の症状がある構音障害が発音した破裂音「ぱ(Pa)」の鼻孔開放の場合の
波形を基にして、4種類の波形(呼気の部分のゲインを増加させた波形、呼気の部分
のゲインを減少させた波形、子音の部分のゲインを増加させた波形、子音の部分のゲ
インを減少させた波形)を作成し、一対比較法による、聴取実験を行った。聴取実験
の結果、子音の部分のゲインを増加させた方が、呼気の部分のゲインを減少させたも
のより、明瞭度が高かった。そこでまず子音部における特徴量を考える。
5. 子音部
呼気鼻漏出の症状がある構音障害が発音した破裂音「ぱ(Pa)」の子音が発声され始
める部分での、鼻孔開放の場合と鼻孔閉鎖の場合のパワースペクトルを比較した。比
較した結果、鼻孔開放の方が鼻孔閉鎖に比べて,高い周波数でエネルギーが高かった
。
6. 結論
呼気鼻漏出では明瞭度を左右する特徴量の1つとして、子音が発声され始める部分で
のパワースペクトルの値を用いることができると考えられる。
今後の課題としては、症状として置換が起こった場合の対処法や明瞭度を下げる原因
となる症状が複数考えられる場合の対処法を考える必要がある。