定性的シミュレーションを用いた緊急時における情報フィルタリングの一手法
西田研究室 阿閉 祐介
1. はじめに
近年のコンピュータとネットワーク技術のめざましい発展に伴って、「情報洪水」という新たな問題が生じている。そのため、ニーズに応じた情報の選別を行う情報フィルタリング技術の重要性が高まってきている。電子メールメッセージやネットニュースの記事を対象としたフィルタリング技術はこれまでに多くの研究が行われているが、短時間に情報が集中することが予想される大規模災害等の緊急時にも適用できるシステムは少ない。本研究では、災害や異常の発生時に情報が連鎖的に発生することに注目し、定性的シミュレーションを用いて導出した情報間の因果関係により情報の選別を行う手法を提案する。
2. 提案手法の概要
図1に提案する情報フィルタリング方式の概要を示す。本手法では、情報から属性を抽出して自動処理を可能にするため、災害や異常の発生を報告する情報は構造化され、定性推論システムに入力される。定性推論システムでは、定性的シミュレーションの実行結果より管理者に報告された情報間の因果関係を推定し、それに従って優先順位の高い情報の持つ属性をプロファイルに書き出す。こうして作成されたプロファイルと、構造化された情報の属性とを比較することにより、発生した災害や異常を知らせる情報を因果関係に基づいて整理し、管理者に提示することができる。また、管理者がプロファイルを自由に修正できるようにすれば、管理者が必要に応じて情報を能動的に手に入れることも可能である。
図1 提案する情報フィルタリング方式
3. 定性推論手順
本研究で用いる定性推論システム内部の処理手順は以下のようなものである。
Step.1 初期状態と仮説ノードの設定
報告された情報から初期状態と仮説ノードを設定し、これらを入力として指定した時間まで単位時間ごとにStep.2〜Step.4のように状態の生成と消去を繰り返す。
Step.2 状態生成
伝播規則と取り得る可能性のあるすべての関数の出力により次の状態を生成する。
Step.3 不一致状態の消去
生成した状態と報告された情報とを比較し、一致しない状態を消去する。
Step.4 仮説の取捨選択
残った状態を次のステージの親状態群として、Step.2へ戻り推論を続ける。状態が残らなかった場合は、その仮説ノードに対する推論を終える。
Step.5 因果関係の導出
最後まで残った状態群の遷移経過から入力情報間の因果関係を導出し、これに基づいてプロファイルを作成する。
4. 提案手法の適用例
図2に示す定性モデルにおいて、外乱により流入量が一時的に高くなった場合を考える。このとき定性モデル各部の値の変化を定性値で表現すると以下のようになる。
流出量 | :M→H→M→M
|
流入量 | :M→H→M→M
|
水位 | :M→H→M→L
|
ポンプ回転数 | :M→H→M→M
|
これらの情報を先に述べた定性推論システムに入力したところ、
流入量→水位→ポンプ回転数→流出量
のように因果関係が導出された。
図2 適用した定性モデルの例
5. 結論
本研究では、緊急時に発生する情報を対象とした情報フィルタリング手法が必要であると考え、定性的シミュレーションを用いて因果関係を導出し、情報を整理・分類する方法を提案した。さらに、定性的シミュレーションを用いて因果関係の推論を行う際の手順について述べ、簡単な定性モデルに対して因果関係が導出されることを確認した。
今後の課題としては、対象の規模が大きくなった時に、生成される状態数を抑えることが挙げられる。今後は、災害発生時のモデルに対しても今回の提案手法を適用し、有効性や問題点の検証を進めたいと考えている。