左右手掌部の皮膚電位と情動要因の関係
内田 敦之
1. はじめに
近年,ヒューマンインタフェース・感性工学・生体工学においては,人間の生理計測を行うことにより心理状態を客観的に評価する研究が盛んに行われてきている.人間が機械とインタラクションを持つとき人間的な要因は無視できない。人間が機械に対して一方的に適応するだけでなく,機械も人間に対して適応することにより高次の協調を計るインタフェースの研究や場面に応じた最適な環境を提供するシステムの開発には,生理反応モデルに基づくストレス・快適性の評価が行われている。しかしながら,人間の情動的側面が強く影響している予期のプロセスにおける研究はあまりなされていない。
本研究では左脳が分析的処理を行っていて且つ右手を支配していること,右脳が直感的処理をおこなっていて且つ左手を支配していることから,予測過程では右手に,意外感を感じたときは左手に優位に反応があらわれると仮定をたてた。そこで予期のプロセスに起因する緊張状態と情動要因の関係を左右の生理指標で測定することを試みる。
2. 皮膚電位反応
人間の心理状態を測定・評価する生理指標の1つである皮膚電位活動は,人間の緊張状態及び覚醒状態を示す指標として用いられている。
3. 緊張状態計測
単純刺激として音刺激を用いて,以下の3つの実験により人間の心理状態を緊張の高まる方へ誘導しその時の左右の皮膚電位(SPR)の計測を行った。
実験(1)被験者に予測できない音刺激
被験者にクラシック音楽を聴かせ,皮膚電位を計測する.音楽の途中に約1secのホワイトノイズによる音刺激を与え,音刺激後に意外性-情動過程に誘導する.
実験(2)被験者に予測された音刺激
被験者に(1)に用いたのと同じ音楽を聴かせ,音刺激が入る時刻を予め知らせておき音刺激前に予測-情動過程に誘導する.
実験(1),(2)では8人の被験者で実験をおこなった。また,この実験において被験者を意図する緊張状態に導くことができた。意外性-情動過程においては左手優位に反応があらわれたもの,予測-情動過程において右手優位に反応があらわれたものは3名であった。
4.まとめ
本研究では,人間の予期過程における緊張状態が左右皮膚電位に差異となってあらわれるかどうかを検証するために実験を行ったところ,いくつかの左右差がみられた。その中で仮定と一致する結果が得られたのは3名だけであった。本実験の結果だけでは意外性-情動過程においては左手優位,予測-情動過程において右手優位とは言い切れない。
今後は心理状態誘導しやすい実験手法,個人差の大きさを考えた統計方法の確立を行う。また皮膚電位反応が気温,湿度の影響を受けやすいことを考慮し研究を行いたい。