多孔質吸音材料の物理モデリングと音場シミュレーションへの適用
岡野 奈緒子
1. はじめに
本研究では音場シミュレーションを行うことにより,音場の音響特性を推定した.こ
れにおいて,シミュレーションで用いられる周壁の吸音特性には,多孔質材料の物理
モデルを適用した.
2. 多孔質吸音材料の物理モデリング
2.1 モデルの概要
多孔質材料の吸音原理は気泡中の空気の粘性摩擦が主役を担っている.そこで材料の
骨格を成す物質と気泡中の空気を「層」という形で独立させ,それぞれの層が重なり
合って材料全体を構成していると考えた.
エネルギーAを持つ音波が材料に入射すると,各層で反射,透過される.この音波の
経路を順に追っていき,材料から外へ出たものの合計を反射波とみなす.そのエネル
ギーをBとすると,材料全体の吸音率αは,
α = 1 - (B/A)
で求められる.
2.2 実験と検討
前節によって構築したモデルを用いて吸音特性を算出した.これにより,多孔質材料
の基本的性質である「低周波数域で吸音率が小さく,高周波数域で大きい」という特
性がほぼ実現されていることが分かった.
3. 鏡像法による音場シミュレーション
3.1 システムの概要
室の大きさや音源,受音点の位置をそれぞれ設定し,各壁面に対する音源の鏡像位置
を順次計算する.そして得られた音線の距離と壁面での反射次数から音のエネルギー
が求められ,それぞれ到来時間順に同一軸上に並べる.これが音場の音響特性となる.
3.2 実験
前節で構築したシステムを用いて音響特性を推定した.その結果,時間,周波数,パ
ワーの3軸で表される音響特性を得ることができた.
次に,この特性の残響時間を理論式による理論値と比較,検討を行った.これにより
,直接音が到来してから0.1〜0.2秒の間の初期反射音についてはよい推定が行えてい
ることが分かった.また,全体的に見ると残響時間が理論値より若干長くなる傾向が
見られ,音線抽出の際に反射次数を制限すると吸音率の小さい範囲では正確な残響時
間が得られないことが分かった.
4. まとめ
本研究では多孔質材料の物理モデル構築し,これを周壁の吸音特性として音場シミュ
レーションに適用,音響特性を推定した.その結果,時間と周波数とパワーの3軸で
表される音響特性が得られた.今後この特性を基として,他の音響情報等も得ながら
音の空間的リアリティを再現したいと考える.