フロー認知に関する基礎検討
長坂 健太郎
1.はじめに
本論文では,フローのより適切な表現について視聴覚刺激を用いた心理実験に基づ
いて考察し,ユーザにフローを把握させやすいインターフェイスを構築する際に考察
すべき要素を明らかにする.ここで取り上げるフローとは,具体的には水流や電流,
あるいは車の交通のようなものを想定している.とくに,プラントの制御盤等のイン
ターフェイスの構築の際,従来フロー表現が必ずしも適切になされているとは言い難
く,フローの的確な認知を実現することは安全性や労働生産性を向上させるとともに
ユーザの負荷を軽減させることにもつながる.
そこで,本研究では視覚と聴覚の2つから受容される情報,すなわち動画や音声か
ら感じられるフローを表現する要素を明らかにし,それらの認知特性及び両感覚の相
互影響とその統合に関する知見を得るための心理実験を行った.そして,その結果か
らより的確にフローを認知させるための表現について考察を行った.
2.映像によるフロー表現
本研究の目的は人間のフロー認知特性を測ることである.その意味では,制御盤に
見られるような線分によるフロー表現を用いて実験する必要は必ずしもない.ここで
は,2点間のフローを表現するのに矢印を用いた.矢印は,ワークステーション上に
描写され,2種類の色によって色分けされた縞模様が左から右にスクロールする.縞
模様の幅,色,速さなどフロー認知に影響すると考えられる要素はパラメータとして
コントロールできる.
3.音声によるフローの表現
人間は聴覚からも様々なレベルのフローを感じている.小川のせせらぎや心臓の鼓
動のようにフローを連想させるタイプや,音の空間定位の変化の代表される物理的な
フローがある.今回は,ピッチ,音色,音量,音の連続性に変化を持たせた様々な音
声をマック上で作成し,この音声を映像に付加し実験を行った.但し,今回は音質そ
のものの影響についての評価は行わない.
4.視覚情報のフロー認知に与える影響
視覚情報はスクロールする縞模様の速さ,太さ,色の3要素で構成されている.そ
こで,それぞれの要素がフロー認知にどのような影響を与えるかについて,検証実験
を行った.
実験結果からは以下のような知見が得られた.
(1)フローの速さに影響を与える要素は,スクロールする縞模様の速さと太さで構
成される面積速度である.
(2)フローの量に影響を与える要素も面積速度である.
(3)矢印の色はあまりフロー認知に影響せず,注目度のような働きをしている.
4.聴覚情報のフロー認知のおける役割
フロー認知における聴覚情報の役割を視覚情報のみで表現されたフローと聴覚情報
を付加した視覚情報で表現されたフローとを比較することによって求める.
実験結果は以下の通りである.
音声を付加した映像と映像のフローとでは音声を付加した映像の方が若干フローを
感じたが,その効果は僅かであった.だが,音声を付加した映像同士で比較した場合
,呈示されたフロー間の違いは映像のみの場合以上に明確に感じられた.このことよ
り,フロー認知における聴覚情報の役割をまとめると以下の2つが考えられる.
(1)トリガーとしての役割.
緊急時にアラームとして音響を用いる.
(2)変化を強調する役割.
変化を逐次細かく,映像と音響を用いて表す.この方法では,微妙な変化を敏
感に感じることが出来る.
5.視覚と聴覚の統合
視覚情報と聴覚情報の統合に関して,従来心理学分野で研究されて
現象について検討した.共鳴現象を利用すれば,単なる視覚情報と聴覚情報ではなく
それ以上の効果が得られると考えられる.そこで,視覚と聴覚の共鳴現象について,
フロー認知においても存在するかどうか,また存在するならば,フロー表現に積極的
に利用できるかどうか実験で確かめた.
実験結果は次のようになった.
(1)フロー認知においても共鳴現象は存在し,フローを表現する際に有効な効果が
得られる.
(2)共鳴現象は,視覚と聴覚のフローに対する印象が近いときに起こりやすい.
(3)実際には視覚情報からフロー量を計算し,その評価値に合った聴覚情報を付加
するか,視覚情報,聴覚情報各々の要素同士を結びつけ,動画の要素の変化に合わせ
て,音声の要素を変化させることにより,共鳴現象を効果的に利用できる.
6.まとめ
フローを線分ではなく,動画と音声で表現することによりユーザに自然にフローを
認知させる研究を行った.フロー認知における視覚と聴覚の共鳴現象についての研究
を更に進めることにより,フローをより正確に,自然に認知させることが出来ると考
えられる.