時間遅れのあるサッカードの特性
丸岡 美生
視覚目標(visual target)に対するサッカード(正常サッカード)と、想起された目標(memorized target)に対するサッカードは、速度も位置精度も違うことがこれまでの研究からわかってきている。しかし想起された目標に対するサッカードは、視覚目標が提示されてからどのくらいの遅延時間(delay)をおけば起こるのかはわかっていない。

本研究では、正常サッカードと想起された目標に対するサッカードでは異なるシステムが用いられていると考え、視覚目標が提示されてから視線移動が行われるまでに遅延時間があるサッカード(遅延サッカード)を用いて、どのくらいの遅延時間をとるとシステムが入れ替わるのか、ということを調べた。
その結果
  1. 0〜2[sec]の遅延時間を持つサッカードは、正常サッカードの速度と比較して小さい速度(約8〜21%の低下)を示すようになる。
  2. 遅延サッカードの速度の低下は遅延時間に関係がない。
  3. 遅延サッカードではオーバーシュートが頻繁に起こる傾向があった。(例えばdelay=2[sec]においては約20%のオーバーシュートが見られた)。このことより正常サッカードの位置精度と比較して遅延サッカードの位置精度は悪くなっている。
  4. 正常サッカードと連続点灯するターゲットに対するサッカードは同じ特性(最大速度、振幅)を示した。このことよりサッカードの速度の特性は初期情報に影響されないと考えられる。
  5. 正常サッカードは連続点灯するターゲットに対するサッカードの約3倍の潜時を示した。
ということがわかった。

上記の結果1、2よりサッカードを始める合図の前に目標位置のターゲットが消えると遅延時間の長さ(delay=2.0[sec]に関係なく正常サッカードとは異なる特性を持つサッカードが生成されていることが予想できる。したがって時間が進んでいるところ(遅延時間が負の値をとるところ)でシステムが入れ替わっている可能性が高いことが分かった。時間がどのくらい進んだところでシステムが入れ替わるのかは調べていく必要がある。