ILQ設計理論と一般化オブザーバを用いた油圧式エレベータの速度制御器の設計
小西 陽介
1 はじめに

エレベータは、構造上、電動ロープ式と油圧式に大別される。従来は、電動ロー プ式が主流であったが、近年、油圧式のシェアが大幅に伸びている。その理由は、 機械室を屋上に設置する必要がないため、建物への負担が少ない点、および日影 権の規制を受ける際に建物の高さを最大限に活用できるという点にある。
油圧式エレベータの速度制御においても、乗り心地や停止精度等の制御性能の向 上を達成した上で、大幅なコストダウンを実現する必要がある。上記を実現する ために、東芝が設計したILQ設計理論を適用した制御器では、実際の実験結果よ り、油圧, 機械系に起因する振動を抑制する効果は確認されたが、油圧ポンプを駆 動するモータが加振源となるかご振動(18Hz)を増幅してしまうという問題点が あった。
今回油圧式エレベータの速度制御に一般化オブザーバを用いたILQ設計理論を 適用し、オブザーバを観測ノイズから出力までの閉ループ伝達関数 Gyn(s)を周波数整形するという目的で設計する。これによって、 ILQ設計理論を適用した場合の油圧ポンプを駆動するモータが加振源となるかご 振動を増幅してしまうという問題点を解決することが可能となり、乗り心地や停止 位置精度等の制御性能の向上を図るための制御器の設計を行なうことができた。

2 制御対象

本研究では、ILQ設計理論と一般化オブザーバを用いて、速度フィードバック のみによる油圧式エレベータに対する速度制御器の設計を行なった。
この研究の対象はインバータ形油圧式エレベータである。
設計用モデルとして、エレベータの物理法則より導出した6次の物理モデル の低周波数帯でのゲイン特性を近似する2次のモデルを作成しそれを用いた。 このようにしたのは、対象モデルの次数を落すとコントローラの次数も下げるこ とができるからである。

3 設計手順

制御系としては、参照入力を一般化したILQサーボ系に、一般化オブザーバを併合した系を考える。
設計の流れとして次のようになる。

(1)ILQ設計理論より目標値応答特性Gyr(s)を指定する。
(2)18Hzでノッチ特性をもつようにある制約条件のもとGyn(s)を指定する。
(3)オブザーバゲインの指定: オブザーバ極は Gyn(s)の極から選ぶ。
(4)自由パラメータQ(s)の導出:得られたGyr(s)、Gyn(s)、オブザーバゲインからQ(s)を計算する。

以上のようにして設計すれば、18Hzの振動を抑制することができる。

4 シミュレーション

実際に、速度指令値Vrefを入力とし、ノイズとして振幅0.02、周波数 18Hzの正弦波を入れた時の出力(乗りかご速度)yの時間応答をとる。 結果として、速度信号のみの出力フィードバックでありながら、追従 性能および制振性能に関して良好と思われ、観測ノイズも抑制する制御系を構成することができたことが確認できた。

5 まとめ

本研究で設計したコントローラは東芝が設計したコントローラと比較し て、出力をフィードバックさせるものなので、状態を計測するセンサが従来の ILQ設計理論では状態の数だけ必要であったが、状態の数に関係なく出力の1個で すむ。
さらに、問題となっている振動を取り除くために東芝では、増幅してしまう振動 を取り除くためにアキュムレータを取り付けている。しかし、本設計法では設計 段階で取り除くように指定しているのでアキュムレータも必要ではなくなると考 えられる。
このように、低コスト化という観点からも本設計法による制御器は良いものであるといえる。