3Dバネモデルを用いた複数オブジェクト動作の自動生成
木内 義貴
1. はじめに
CG(コンピュータ・グラフィックス)を用いたアニメーション作成を人間が行う
際には莫大な時間と手間を必要とする.この作成省力化に関する問題は,大きな課題
として以前より解決が求められていた.
一方,近年のコンピュータ技術の発達により,比較的簡単なシステムでもVR空間
で3Dアニメーションを扱うことが出来るようになった.但し,アニメーションデザ
インに関するアイディアと興味深い動きを再現する技法に特例なスキルを必要とする
事は変わりなく,コンピュータによるより積極的な支援が求められている.
本研究はこうした要請を視野に行われた単数オブジェクト動作の自動生成の研究(
1998年池上氏修論)を拡張し,オブジェクト数が複数の場合の動作の自動生成環
境の構築を目指したものである.
2. 3Dバネモデル
本研究ではアニメーションするオブジェクト表現に3Dバネモデルを用いている
.これは立方格子状でそれぞれの辺がバネで出来たものであり,独立したそれを2つ
以上併存させることによりオブジェクトの複数化を実現している.オブジェクト形状
に基づいたモデリングを行うよりも立方格子の中に閉じこめることでオブジェクトが
変形する際の計算量を軽減する事が出来る.なおバネモデルには数種類の基本動作が
あり,これらを組み合わせることにより,より複雑な動作も表現できる.
3. 動作の分類
複数のオブジェクトが同じ空間内に存在している場合,各オブジェクト間の相互の
関係に何らかの意味が付随している場合が多い.例えばオブジェクト間の距離を一定
に保つという関係も付随された意味のうちの1つである.ここでは意味が付随した関
わり合いを「相互関係に関する動作」と呼ぶことにする.本研究ではオブジェクトの
個々の動作と相互関係に関する動作を分類し,別に定義した.
4. 動作コントローラ
バネモデルに連続的に基本動作を組み合わせて与えることにより一連の動作を生成
するが,その際動作コントローラを用いている.基本動作には数種類のパラメータが
用意されており,これらは動作コントローラで与えられる評価関数に従って変更され
る.さらにこの動作コントローラを時系列的に並べて複雑な連続動作が合成される.
こうした最適な動作コントローラを得る問題を,最適解の探索ととらえ次項のような
手法を試みた.
5. 動作探索法の検討
ユーザの要求を満たす適切な動作コントローラを探索することにより,オブジェク
トの動作の自動生成を実現するためには,生成した動作コントローラを何らかの視点
によって評価する必要がある.すなわちユーザの要求に沿った評価関数を設定すれば
最適な動作コントローラの探索が可能となる.
なお,本研究では複数の動
(1)あらかじめ一方のオブジェクトに個々の動作の評価関数を用意し最適動作コン
トローラを探索しておき,もう一方のオブジェクトに関して相互関係に関する動作の
評価関数と個々の動作の評価関数の2つを用意して最適動作コントローラの探索を行う.
(2)両方のオブジェクトのそれぞれに個々の動作の評価関数を用意する.さらに相
対関係に関する動作の評価関数も用意して両方のオブジェクトの最適動作コントロー
ラを同時に探索する.
また複数のオブジェクト動作の多様な動作の生成を目指し,それぞれの評価関数に
重み付けを行った.
これら2つの動作探索法を比較するため簡単な動作の組み合わせで様々な重み付け
によるシミュレーションを行った.
6. まとめ
(1)の探索方法は(2)の探索方法よりも収束が早く,探索時間を削減できた.
また重み付けの変化に関しては個々の動作の重み付けが増加すれば個々の動作が目立
った動作を,相互関係に関する動作の重み付けが増加すればお互いの位置を意識した
動作をある程度生成することが出来た.
(1)の方法は主従関係を有したオブジェクト動作生成に有効である.また,(2
)の方法は町中の人々などの同等な立場のオブジェクト動作生成に有効である.
今後の課題として,オブジェクト数を増やし一般的な複数オブジェクト動作生成に
拡張していきたい.また探索時間が絶対的に多く,作成時間の省時間化には至ってい
ない.探索時間の削減は本研究の大きな課題である.また探索アルゴリズムの改良を
行い,より要求に沿った動作の生成環境を実現したい.