訓練タスクオントロジーの設計
林 雄介
1.研究の背景と目的
企業内で業務に携わる運転員の実状として、以下のような問題点がある。
- 業務内容の高度化・複雑化による運転員に求められる能力や知識の増大
- 運転知識が自動化メカニズムに埋め込まれ、運転員の目に触れることが少ない
このような問題点と教育におけるコストの増加によりコンピュータによる訓練システ
ムの重要性の増しているが、訓練システムの構築は専門家の暗黙の専門技能に頼って
いるのが実状である。このような背景の下で以下のような技術が求められている。
- 訓練システム構築のためのガイドラインの確立
- 教材の再利用性・共有性の実現
これらを実現するためにオーリングに必要な概念をオントロジーとして明らかにし、
それを用いて知的訓練システムのオーサリングツールを構築する事が本研究の目的で
ある。
2.オントロジー
オントロジーは対象とする世界を構成する概念の意味や、それらの概念間に成り立つ
関係を体系化し、対象を記述する際の規約となる。
本研究で対象としているタスクオントロジーは利用の範囲を特定の問題解決に限定し
たオントロジーであり、その利点として以下の2点が挙げられる。
- 人間の概念構造と対応しており、人間と親和性がある。
- 概念を情報処理システムにとってオペレーショナルな形式で定義
3.SmartTrainer/ATの構成
SmartTrainerは対象に独立で訓練に固有の概念レベルを重視し、様々な業務の訓練シ
ステムを実現するためのプラットホームを目指している。本研究では配電用変電所に
おける構内事故対応業務を対象として検討を進めている。
SmartTrianer/ATはオントロジーに基づいた知的訓練システムとそのオーサリングツ
ールであり、図1のような構成となっている。オントロジーに基づくオーサリングツ
ール利点として、以下の二点を上げることができる。
- 親和性のある表現のインタフェースが提供される。
- オントロジーがガイドラインとなり、訓練システム構築が容易になる。
4.訓練タスクオントロジー
訓練タスクオントロジーを構築するにあたり、その構成は大きく二つに分類すること
ができ、それぞれ以下のような構成となっている。
4.1ドメインオントロジー
訓練の対象領域を表すオントロジー
- 設備オントロジー:電力系統を構成する機器の体系的な概念定義
- 系統オントロジー:電力系統の構成に関する体系的な概念定義
- 業務オントロジー:電力系統の事故復旧業務に関する概念定義
4.2タスクオントロジー
訓練において重要な概念を表すオントロジー
- 教材構造:訓練シナリオの構造を表す概念定義
- 教材知識:教授知識の構造を表す概念定義
- シミュレータ:訓練対象を模擬するための概念定義
5.オントロジーに基づいたオーサリング
訓練システムのオーサは訓練タスクオントロジーのモデルとして訓練システムを記述
する。訓練タスクオントロジーによって定義された概念を用いることにより、オント
ロジーが訓練システム作成のガイドラインとなるだけではなく、オーサの設計意図を
表現することができる。本研究では訓練シナリオを構築することにより、設計したオ
ントロジーの妥当性を検討した。
6.まとめ
本研究では、テキスト表記により約500行の訓練タスクオントロジーの設計を行った
。今後の課題として、以下の3点が挙げられる。
- 訓練タスクオントロジーの整備
- 訓練タスクオントロジーの利用とその評価
- オントロジーに基づいたオーサリングツールの実現