議員定数配分問題について
藤重研究室 廣畑 圭司朗
1.はじめに
各選挙区の人口とそれらの選挙区に割り当てられる総議員定数が与えられ
ているとする.そのとき,総議員定数を,各選挙区にそれらの人口分布に基づい
て ``できるだけ公平'' に配分する方法を求める問題を,議員定数配分問題という.
``できるだけ公平'' な議席配分とは,どのような議席配分であろうか.実
際に,議席を配分するとき,議員定数1人当たりの人口をすべて同じにすること
は,不可能であるが,その値を近づけることは可能である.そこで,その値
の格差をできるだけ小さくし,各選挙区の議席数の割合が,人口の割合にできる
だけ近くなるような議席配分方式が望ましいといえる.
アメリカ合衆国においては,建国以来,この問題に対する議論が重ねられ,以下
にあげる各種の方式が提案されてきた.
剰余数方式:人口(アラバマ)パラドックスがある.
ハミルトン方式--人口の多い選挙区に有利.
ラウンズ方式--人口の少ない選挙区に有利.
除数方式:取り分制約を満たさない.
ジェファソン方式--人口の多い選挙区に有利.
ウェブスター方式--人口の大小にあまり左右されない.
ディーン方式--人口の少ない選挙区にやや有利.
アダムズ方式}--人口の少ない選挙区に有利.
2.現行の議席配分の問題点
1998年7月に行われた,参議院選挙の選挙区選での各県の配分議席数は,そ
れぞれの理想議席数と比べてみると,大きな違いがみられる.
実際にハミルトン
方式やジェファソン方式などの方式で参議院の議席配分を行ってみると,人口の
少ない鳥取県では,0議席という結果を得た.
議席配分を行う際,注意しなければならないのは,与えられる議席数が,ど
の選挙区においても,1議席以上にならなければならない,ということである.
ある議席配分方式で議席配分を行ったときに,議席数が0になる選挙区がでてく
るような方式は,議席配分方式としてふさわしくないのである.
このため,日本ではあらかじめ各選挙区に対して1議席を配分し,その後で,残
りの議席を剰余数方式で配分していると推測される.この方式の結果,配分され
た議席数と理想議席数との間に,大きな差が生じている.
3.新しい議席配分方式の提案
議席を配分するときに用いる方式は,各選挙区に配分さ
れる議席数が1以上になる方式を用いなければならない.したがって,各選挙区
の議席数が1議席以上という制約を
課した上で,最適化を行うような議席配分方式を考えなければならない.
そこで,新しい議席配分方式として,「分散最小化方式」,「辞書式マックスミ
ニ方式」,「辞書式ミニマックス方式」の3つの方式を提案した.
このうち,分散最小化方式とは,
人口1人当たりの議席数の分散を最小化して,選挙区iの議席数x(i)を求め
る方式である.選挙区iの人口をp(i),総議席数をKとすると,この方式は,
以下のように定式化できる.
Minimize Σx(i)*x(i)/p(i)
subject to Σx(i) = K
x(i) >= 1, x(i)は整数
4.考察
新しい3つの議席配分方式では,アラバマパラドック
スが生じないことが証明できる.また,それぞれの方式による計算を適用したい
ずれの結果においても,現行の議席配分結果と比べると,非常に理想
議席数に近い値が得られた.さらに,それぞれの議席配分方式は,辞
書式マックスミニ方式が,人口の多い選挙区に有利な方式,辞書式ミニマック
ス方式は,人口の少ない選挙区に有利な方式で,分散最小化方式が,最も理想議
席数に近い値を示す方式であるという傾向が認められる.したがって,日本にお
ける議席配分方式として最もふさわしい方式は,分散最小化方式であるといえる.